学部長の挨拶2018

 人間科学部がスタートして1年が経ちました。1期生たちは、人間について学びたいという意欲にあふれ、新しい学部を自分たちで作っていこうと能動的に学んでいます。「人間科学地域実践入門」の授業では、地域の施設や自治体に出かけ、そこで職員の方から話を聴いたり、地域の方々と関わりながら学びを深めていきました。また、授業の最後には、自分の学んでいることを他コースの学生にも伝え合うIPM(インタラクティブ・プレゼンテーション・ミーティング)を行い、新たな視点を得るとともに、自分たちがこれから学んでいくことを見つめ直しました。

 現在の日本は、成長社会の時代を終え、生活の質や精神的な豊かさを重視した成熟社会の時代を迎えたと言われています。科学技術の発展は、私たちができることを拡大し、生活を便利にしてきました。しかし、格差の拡大、ワークライフバランスや対人関係の問題など人間にまつわる未解決の問題がたくさんあります。人間科学部は、このような時代背景の中、人々がその人らしく生きることができる社会を目指し、その様々な問題を人間の視点から多角的に理解し、解決法を提案する学部として誕生しました。

 それでは、島根大学人間科学部で行われている人間科学とはどのような学問なのでしょうか?

 第1の特徴は、人間をこころとからだと社会的側面から総合的にとらえることにあります。たとえば、「幸せ」ということを例にとって考えてみましょう。私たちが現在の生活に満足し、「幸せ」だと感じているかどうかは、人が主観的に感じているものであり、人間の心理的側面です。しかし、「幸せ」であると感じるかどうかには、身体的に健康、経済的な状況や社会制度、地域における住民のつながりなども大きく関係しています。このように、人間のこころとからだと社会的側面は密接に関連し、それらを総合的にとらえることで人間を多角的に理解することができます。島根大学人間科学部では、これら3つの側面のどこかに重点を置きながらも、3つの側面を総合して人間をとらえていきます。

 第2の特徴は、実践的な知と科学的な知を往還させることにあります。私たち人間は、1人1人が個性を持ち、独立した人格を持つ存在です。地域社会に生きる人々のかかえる問題を実践的に解決しようとする場合、その人および周りの人々や社会がどのような特徴を持ち、どのような関係にあるのかを個別にかつ包括的に理解してその問題に対応していく実践的な知が必要です。一方で、私たち人間にも、他の生物と同様、その特性には一般的な法則があります。そのような法則を量的・質的な根拠に基づいて論理的に明らかにしていく科学的な知も欠かすことができません。島根大学人間科学部では、実践的な知と科学的な知を往還させる複眼的思考に基づいて、地域社会に生きる人々を深く理解し、その抱える問題を解決していきます。

 「巨人の肩の上に立つ」ということばにあらわされているように、先人たちの見出してきた知見を学ぶことによって、複雑な現象を見通すことができ、新しい創造的な仕事もすることができます。異なる巨人の肩の上に立てば、異なる見え方がしますし、何人かの巨人の肩の上に立てばさらに多角的な視点を持つことができます。人間科学部は、人間について、そうした様々な「巨人の肩」を提供している学部なのです。

 あらたに2期生を迎え、学生たちには先輩と後輩という新しい関係も生まれます。実験室などの整備も進み、次第に人間科学部の形が整ってきました。人間についての新しい学びと研究の府を島根の地で構築しようと取り組んでいる私たちをぜひ見に来てください。そして、私たちとともに巨人の肩の上立ち、新たな知見を見出し、よりよい未来を作っていきませんか!

人間科学部長 村瀬 俊樹